魔界 天界 妖精界 人間界
四つの世界の、ちょうど境目に、その世界が在る。
悪魔と暮らし、妖精と助け合い、神々の加護を受けた 人の暮らす世界。
小さな小さなその世界に、小さな小さな少年がいた。
「だーかーら!ドラゴンだって!」
「情報屋の話しは当てにならないからなぁ」
「貧太くんの言う通りです。ドラゴンは希少な生物ですよ?」
「簡単に見つかりっこないんだよ。だろ?悪魔くん」
"悪魔くん"と呼ばれた少年は栗色の髪を揺らして頷いた。
「僕も会ってみたい、とは思うけどね。だから、こうして
情報屋の話しなんか真に受けて探しに来ちゃってるんだから」
「なんか、とは何だよ!」
四人は笑い合いながら、普段入ってはいけないと言われている山へやって来た。
『山でドラゴンの鳴き声を聴いた』
それは情報屋の信憑性無い話しではあったが、三人は面白半分
山を捜索し始めた。
そろそろ夕陽が傾いてきた。子供である彼等の自由時間は残り少ない。
「じゃ、俺はあっちを探すぜ!」
「では僕はこっちを」
「じゃあ僕はこっちだな。悪魔くんは?」
「うーん…あっちの方へ行ってみるよ」
山は高い木々に覆われて、まだ昼間だというのに薄暗い。
三人と別れ、一人山奥へと進んで行くと
「…水の、匂い?」
木々が開けた場所に光りが溢れる湖をがあった。
幻想的なその場所に
「……ドラゴン……」
赤黒い血で汚れたドラゴンが、首と手足を鎖で繋がれている。
恐る恐る近づいたが、ドラゴンは吼えこそしないものの
警戒心を剥き出しにして敵意を示していた。
「あ…ごめん。大丈夫だよ。ちょっと見せて」
鎖の出処は地に埋められた罠。
ドラゴンを捕らえようと、人が仕掛けたものだ。
「酷い事を…。でもこれならすぐに外せる!
安心して。すぐに…」
「おーい!悪魔くんー!」
遠くから聞こえる友人の声に、慌ててその場を離れ、返事をした。
「な、なに?」
「キリヒト君が足を挫いたんだ。僕らは一旦戻るけど…悪魔くん、どうする?」
「ぼ、僕はもう少しいるよ。妹に花を摘んでくるように頼まれてるし」
「そっか。うん、じゃあまた」
友人達が山を降りていくのを見て、ほっと胸を撫で下ろした。
ドラゴンの元へ戻ると、早速罠を外す作業に取り掛かった。
「えーっと…確か此処がパズルになってて…こっちを右に回して…」
ぶつぶつ呟きながら外す姿を、ドラゴンはただじっと見つめていた。
ガシャン、と音が鳴り、手足の鎖が外れた。
「やった!あとは首の方だけど…」
首を捕える鎖はパズル式ではなく、鍵が必要なタイプだった。
こればかりは、今すぐにはどうにもできない。
「…仕方ない。帰って、何か持ってくるよ」
そう言いながら見上げると、ドラゴンはふいっと顔を反らした。
「はは、やっぱり、信用できないよね」
苦笑いをして、湖の方へと駆けハンカチを水に濡らした。
「繋がれてたところ…傷が出来てるから…
少し痛いかもしれないけど、我慢してくれよ」
それで傷口を撫でると一瞬、ドラゴンの身体がビクッと震えた。
「泥を落とすだけだから、我慢して。
明日は薬と…あと、何か食べ物も持ってくるから」
何時の間にかさしていた夕陽は徐々に弱くなり、代わりに月が光り始めていた。
月明かりに光るドラゴンは翼の裏側と目だけが紅く、
他は漆黒の色をしていた。
「…こんなきれいな生き物…見た事ない…」
うっとりしながら呟くと、ドラゴンが目を見開いた。
驚いているように見える。
それに笑いかけ、ドラゴンに手を触れた。
「またね」
また明日 必ず来るから、と ドラゴンに触れている手の甲にキスをした。